公共下水道と合併処理浄化槽
公共下水道と合併処理浄化槽の違いをご存じですか。それらの特徴と公共下水道の今後の問題、下水道法第十条の問題点、岡山市の下水道普及率の虚偽申告問題などについて考えてみました。
最近下水道料金が高いと思いませんか。それなのにまた値上げをするという報道が気になります。どうしてこのようになってしまったのか考えたことがありますか。
公共下水道と合併処理浄化槽の違い
トイレや台所や風呂から排出される 生活排水楽天 や工場排水は水をきれいにしてから河川に放流しています。この処理を行なうのが公共下水道やこの写真のような家庭の合併処理浄化槽です。
公共下水道や合併処理浄化槽のBOD除去率は約90~95%となっていて、どちらで処理しても綺麗な水にすることができます。公共下水道の方が良いということはありません。
各家庭に設置して処理しているのが合併処理浄化槽であり、各家庭や工場の排水をまとめて処理しているのが公共下水道です。
公共下水道の特徴
- 各家庭や工場の排水を集めて下水処理場まで運んで処理しています。このため、規模の大きい下水道管や下水処理場が必要です。
- 人口密集地では一戸当たりの下水道管の長さが短くて済み、一戸当たりの建設費を安くすることが可能です。
- 住民の反対で人口密集地内に下水処理場を作れない場合は、人口密集地外まで下水道管を延長する必要があり、建設費が高くなります。
- 人口密度が低い農村部では一戸当たりの下水道管の長さが長くなり、一戸当たりの建設費が高くなり、下水道料金が高くなる原因になっています。
- 公共下水道には雨水と汚水を分けて処理する分流式(新設タイプ)と雨水と汚水を分けないで処理する合流式(古いタイプ)とがあります。
- 合流式の下水道は雨で増水した場合、下水処理場での受け入れ能力以上の排水は処理しないでそのまま流されてしまいます。
- 合流式ではマンホールの蓋や側溝等に雨水を排除する排水孔があるので、下水道管からの悪臭や害虫による問題があります。
- 一般住宅の汚水だけでなく工場排水も処理するので有害物質が入ってくるおそれがあり、この検査と除去が必要です。
合併処理浄化槽の特徴
- 人口密度の低い農村部では下水道と下水処理場を作るよりも各家庭に合併処理浄化槽を設置する方がはるかに割安になります。
- 合併処理浄化槽は定期的な維持管理と毎年1回以上の清掃(汚泥の搬出)が必要です。
- 合併処理浄化槽の管理が悪いと少し悪臭がすることがあります。
- 合併処理浄化槽は管理費以外に清掃費とエアーポンプの電気代が必要です。
- 最近の合併処理浄化槽は高性能で窒素やリンの除去も行なえるものまであります。
- 合併浄化槽の維持管理費は浄化槽の使用者が負担しており自治体の財政負担はほとんどありません。
- 設置費用の一部を自治体が負担してでも合併処理浄化槽の整備を推進した方が全体でみると経済的です。
合併浄化槽の掃除の時に出る汚水の処理には公共下水道の汚水処理施設を利用しています。この処理料金は、汲み取りの場合の、し尿の処理料金と同じになっておりとても割高です。
合併浄化槽の掃除の時に出る汚水は、普通のし尿に比べて水の汚れはとても小さくなっています。従って、公共下水道の処理施設を利用していても、自治体の負担はほとんど無いと思われます。
公共下水道の今後の問題
公共下水道は国土交通省の管轄で、生活排水対策は環境省の管轄になっています。この為に各自治体では、公共下水道の必要性や経済性がよく検討されずに作られているのが現状です。
人口密度の低い農村部では元々合併処理浄化槽のような個別処理が適しているのに、多くの自治体で下水道の整備を推進しており、非経済的な事業が多く行われています。巨額な工事費用の償還費やその維持費で自治体の財政を圧迫しています。
全国の平均的な自治体では、公共下水道の使用料金収入で下水道事業費の約60%しか賄えておらず下水道事業は赤字のところが多いのです。
それに追い討ちをかけるのが、公共下水道が整備されても、経済的な理由で公共下水道に接続しない世帯が多くあることです。このことが更に下水道料金を押し上げる悪循環に陥っています。*注1
下水道の建設には国から多額の補助金が出ていますが、下水道の維持管理には補助金はありません。下水道の維持管理には建設費より多くのお金が必要です。多くの自治体で将来財政が破綻することが心配されています。
*注1
下水道法 第十条 (排水設備の設置等)
公共下水道の供用が開始された場合においては、当該公共下水道の排水区域内の土地の所有者、使用者又は占有者は、遅滞なく、次の区分に従って、その土地の下水を公共下水道に流入させるために必要な排水管、排水渠その他の排水施設(以下「排水設備」という。)を設置しなければならない。ただし、特別の事情により公共下水道管理者の許可を受けた場合その他政令で定める場合においては、この限りでない。以下省略
この第十条に対する罰則は無いようですが、下水処理区域内の汲み取り式便所は3年以内の水洗便所への改造義務があり、違反の場合は30万円以下の罰則があります。
下水道法第十条の問題点
下水道法第十条によると、公共下水道の供用が開始された場合の排水区域内では、排水を公共下水道に接続しなければならないように規定されています。これは法律がおかしいと思います。
何故なら、排水区域内で合併処理浄化槽を使っている場合でも、これを使わず公共下水道に接続することを求められているからです。
- 公共下水道の下水処理と合併処理浄化槽は排水の処理性能が同等なこと
- 一般的に合併処理浄化槽は公共下水道より費用が安く済むこと
- 元々合併処理浄化槽を作る時、補助金が支払われていること
- 合併処理浄化槽を壊して、更に費用を掛けてまで公共下水道に接続する合理性がないこと
これらのことから、公共下水道の供用区域内で合併処理浄化槽を使っている場合は、排水を公共下水道に接続する義務を除外すべきです。
私の意見のまとめ
人口密集地は公共下水道にして、それ以外の場所では合併処理浄化槽にするのが良いと思います。今のように人口密度の低い地域でも公共下水道を作るのはお金の無駄使いです。
また、公共下水道の供用区域内で合併処理浄化槽を使っている場合は、排水を公共下水道に接続するかどうかの判断を住民に委ねるべきだと思います。そうすることで、公共下水道事業の採算の見直しが行われ、この事業に歯止めがかかるようにするべきだと思います。
岡山市の下水道普及率を間違えて申告していた問題
岡山市は1970年度から29年間、下水道普及率をより高く見せるため、地方交付税の算定基準になる「現在排水人口」について、国が定めた「定住人口」ではなく、通勤者らも加えた「昼間人口」から算出し、毎年約2万~10万人多く報告して、地方交付税約20億円を多く受け取りました。
その後国に約41億円の支払いを命じられました。岡山市が約21億円の損をしたことになります。
「市民オンブズマンおかやま」は当時の市長や幹部職員らを相手取り、計17億2700万円を市に返すよう求めた訴訟を行いました。
2006年5月17日、岡山地裁での判決内容は「普及率の数値が高いのを知りながら、漫然と交付税を過大に受け続けた」と過失を認定し、安宅敬祐元市長ら17人に対し、計16億800万円を市に返還するよう命じました。
岡山市の下水道普及率問題の決着
2009年9月の広島高裁岡山支部での2審判決は、安宅氏や元下水道局長ら7人に約7億6千万円の支払いを命令するものでした。被告らは上告しましたが、安宅氏以外の6人は2010年8月、1人700万~1300万円を支払うことで和解が成立しました。2010年12月、オンブズマン側は、安宅氏の分1800万円も含め、受け取った和解金計9千万円を市に引き渡しました。