トランジスタによる低周波増幅回路の設計方法
様々な回路を設計していると、トランジスタを使って、ちょっとしたA級バイアスの低周波増幅回路を作りたいことがよくあります。例として、「AMワイヤレス・マイクの設計製作」の一部のエミッタ接地を使った1石のトランジスタ回路の設計方法を紹介します。
ここで紹介する回路は「AMワイヤレス・マイクの設計製作」の中の低周波部分の1段目(トランジスタ1石)だけですが、2段目も同様な回路ですので割愛します。
トランジスタによるA級低周波増幅回路図と設計条件
この回路図が1段目の低周波増幅回路で、エレクトレット・ コンデンサマイク楽天 の信号電圧(0~10mVp-p)を約4倍~約80倍増幅します。
設計条件
使用トランジスター 2SC1815(最大定格 Vcbo=60V Ic=150mA)
電源電圧 Vcc = 9V
エミッタ電流 Ie ≒ コレクタ電流 Ic≒1mA
エミッタ電圧 Ve = 1V
直流電流増幅率 hfe = 100
電圧増幅度 A = 約4~約80
低周波増幅回路の各定数の決め方と計算方法
エミッタ接地のエミッタ電圧は、バイアス安定の為に、電源電圧の1/10~1/5に設定します。この電圧が高い程、安定になりますが、ダイナミックレンジが狭くなります。VR1は利得(ゲイン)を設定する為の半固定抵抗です。普通のマイクアンプでは、ゲイン0から調整するので、このようなVRの使い方はしません。
抵抗値は全てE12系列のものを使用します。E12系列でたいていの回路の設計はできるものです。
VR1の計算:
VR1 = Ve/Ie = 1V/1mA = 1kΩ
ベース電流Ibの計算:
Ib = Ie/hfe = 1mA/100 = 0.01mA
R5の計算:
R5のブリーダ抵抗にはバイアス安定の為、Ibの10倍の電流を流しますのでブリーダ電流は0.1mAとなります。A級増幅のトランジスタのベース・エミッタ間の順方向電圧(Vbe)が約0.6Vになりますので、ベース電圧Vbは、
Vb = Ve+Vbe = 1+0.6 = 1.6Vとなります。
R5 = Vb/0.1mA = 1.6/0.1 = 16kΩ
となり18kΩを使用します。(もちろん、R5を15kΩにしてもかまいません。その時はR4の値も計算値より小さくします。)
R4の計算:
R4にはブリーダ電流とIbが流れますから0.11mA流れます。
R4 = (9V−1.6V)/0.11mA ≒ 67kΩ
となり68kΩを使用します。この場合、R5を決定する時、計算値より大きい値にしたので、R4も計算値より大きい値を選びます。
R6の計算:
電源電圧Vcc = 9Vとエミッタ電圧Ve=1Vとから、出力信号は9Vと1Vの間を動きダイナミックレンジは8Vとなります。コレクタ電圧Vcをダイナミックレンジのほぼ中央にするにはR6の電圧降下を8/2=4Vにすればよろしい。
R6 = 4/Ic = 4/1mA = 4kΩ
となり3.9kΩを使用します
最小電圧増幅度Amin.
R6とVR1が決まると最小の電圧増幅度が決まります。つまり半固定抵抗VR1を利得最低にした時にはエミッタフォロアのような動作となる為、エミッタの出力信号電圧(VR1×Ie)はベースの信号電圧とほぼ等しくなります。つまりIe≒Icだからコレクタ出力信号電圧は R6×Ic≒R6×Ieとなります。
Amin. = R6/VR1 = 3.9/1 = 3.9 倍となります。
(実際は出力R6に並列に次の段の入力抵抗も入るので正確にはこのようにはなりません。)
C6の計算:
TR1のエミッタの外側からTR1のエミッタ方向を見たインピーダンスZeはトランジスタからベース回路を見たインピーダンスR1,R4,R5の並列インピーダンスとトランジスタのhieとの和の約1/hfeとなります。2SC1815トランジスタのhieはIc=1mA,hfe=100程度のもので約3kΩです。
Ze = {(R1//R4//R5)+hie}/hfe = {(2.2k//68k//15k)+3kΩ}/100≒ 49Ωとなります。
(R1//R4//R5)はR1とR4とR5の並列回路の抵抗値を表すものとします。
C6としてこれより低いインピーダンスのコンデンサが必要なので、最低周波数の200Hzでインピーダンス8ΩとなるC6=100μFを使用します。
最大電圧増幅度Amax.
ここでRLはR6と次段の入力インピーダンスの並列インピーダンスとなりこれを約8kΩとすると
RL = R6//8kΩ≒2.6kΩとなります。
Amax. = (hfe×RL)/hie = (100×2.6kΩ)/3kΩ ≒87倍
となり実際は計算値より小さくなります。
C4,C5,C7の決定:
この低周波増幅回路はAM送信機に使うので、C4は主に700kHzの高周波のバイパス用で、700kHzでのインピーダンスは2.3Ωです。できるだけTR1に近い場所に取り付けます。
C5は信号のカップリングコンデンサで、この段の出力インピーダンス3.9kΩより200Hzで十分低いインピーダンスとなるように選定します。10μFを使用します。
C7は音声周波数の高域カットとTR2のベース回路に高周波が入るのを防止します。R6と次段の入力抵抗との並列抵抗値約2.6kΩと比較して、4kHzで少し高めのインピーダンスとなるように0.01μFを選定します。