AMワイヤレスマイク(送信機)の設計と製作
2005年4月から某大学の非常勤講師として通信技術を教えることになりました。授業ではAM送受信機をCADソフトを使って製作します。これは教材用の中波のAMワイヤレスマイク(送信機)として設計したので、各回路定数は吟味して決めてあります。市販の部品だけで設計・製作しました。性能は実用的で満足できるものだと思います。
AMワイヤレスマイクの製作方法
このAMワイヤレスマイクは、授業では基板設計の勉強の為にプリント基板の設計もコンピューターで行ないましたが、この程度の回路なら工夫すれば汎用の基板に組むこともできます。
AMワイヤレスマイクの回路図
AMワイヤレスマイクの簡単な動作説明
TR1とTR2で エレクトレットコンデンサマイク楽天 の音声信号(0~約10mVp-p)を150~3000倍程度に増幅します。TR4のエミッタフォロアでこの音声信号を4.5V±4.25Vのダイナミックレンジの信号にして、TR5のC級電力増幅回路の電源に加えてコレクタ変調を掛けています。TR3は約700kHzの搬送波を発振します。
無変調時の電源の消費電流はTR1~TR3の回路で約4mA、TR5の回路で約5mAです。この時のアンテナ出力電圧は約90Vp-pで、出力電力は10mW程度でした。普通の木造住宅の家の中ではどこでも受信可能でした。
C21のコンデンサには約90Vp-pの電圧がかかるので、50V耐圧の物でも動作はしますが、できれば500V耐圧の物を使ってください。25V耐圧の物が混入しているのを知らずに製作したら、動作不良の原因が解らず苦労しました。
D1のダイオードは1SS53や1S1588などの小型の高速シリコンダイオードを使ってください。
上の回路図でC8よりC6の方が容量が大きいのはおかしいと思われる方は、エミッタのバイパスコンデンサの計算方法が間違っています。VR1の可動部がエミッタ側に移動した時C6の容量がC8の2倍以上必要です。
コンデンサの容量は品種を増やさない為に、同調回路以外はできるだけ切りの良い値に丸めました。
送信機の設計・製作で試行錯誤や工夫した事
- 市販の部品だけで比較的簡単に作れる事
- 消費電流が少なくてもよく電波が飛んで実用になる事
- 回路が単純で解り易い事
- 教材として回路設計上、意味のある回路を含んでいる事
- 発振回路に直接ベース変調やコレクタ変調を掛けてみましたが、周波数変動が大きくFM変調となってしまうので、終段にコレクタ変調を掛けることで解決しました。
- 発振回路へのコレクタ変調は変調の直線性が極端に悪く、全く使い物になりませんでした。
- 終段をA~AB級動作にして、バイアス回路も含めてコレクタ変調を掛ける回路は、非常に直線性の良い変調特性となりましたが、終段の能率が悪いのでやめました。
- アンテナに1~2mのリード線を使ったので能率良く電波を乗せるには、アンテナをできるだけインピーダンスと電圧の高い回路に接続するのが良いことがわかりました。
市販の部品を使う為、発振コイルと終段のコレクタ変調回路には、中波のラジオに使う局部発振回路用の7Kコイル(赤色コア)を使いました。左の図がコイルを分解して中の構造を調べたものです。
コイルの足の番号は慣用的に下から見て3本足から右回りに番号が付けられています。4番から巻き始めて6番まで巻いた上に1,2,3の順にコイルが巻かれていました。4~6間がコレクタ回路につながり、1~3間にアンテナ回路がつながります。
コイルの巻き線比は10対95でインピーダンス比は、約1対90となります。また3番ピンをホット側つまりアンテナ端子側としなければなりません。
1~3間のインダクタンスは約360μHです。150PFのコンデンサとで約700kHzに同調します。
約2mのアンテナは図のように非常に高インピーダンスと考えられます。
アンテナに供給する電圧をできるだけ高くする事が、能率良く電波を出すコツのようです。
この2mのアンテナは約20PFのコンデンサと同等な動作をしました。
送信機の終段電力増幅回路の実際の動作
この図で上はベース電圧、下はエミッタ電流(コレクタ電流)です。
オシロスコープの波形でベース電圧測定時にエミッタ電流が減っているのは、ベースにオシロスコープのプローブを当てた為、プローブの静電容量の影響です。
終段のタンク回路が同調している時で、ベースドライブが正のピーク時に、コレクタ電圧は0又は負となっていて、電流は0となっていました。同調するとコレクタ電流が少なくなるのはこの為です。
この図のように振幅変調していない時つまり4.5Vの電圧がTR5のコレクタ側に掛かっている時、コレクタ電圧は9.5Vp-pとなっていました。コレクタ電圧の最低値は負の0.5V程度まで振れていました。
同調回路の調整はコレクタ電流が最低になるようにします。
同調をずらした時は、このようにコレクタ電流(エミッタ電流)は大きくなります。
このオシロスコープの画面ではコレクター電流の最大ピーク値は約47mAとなっています。
送信機の振幅変調の直線性
これがAM変調の直線性です。コレクタ変調としてはまずまずの特性をしていると思います。
CSデジタル放送の音楽で変調を掛けて、中波のラジオで聞いてみましたが、普通のラジオ放送と遜色ない音がしていました。
トラペゾイド波形の測定結果はこちらにあります。
送信機の完成写真
これが完成したAMワイヤレスマイク(送信機)の写真です。
電源スイッチのところにLEDと270Ωの抵抗を並列にした物を取り付けて、終段の同調回路の調整に利用してみました。LEDが一番暗くなるところで調整します。調整後にこの回路は取り外すかショートします。
電源に006Pの乾電池を使用する時は、アンテナだけでなくアース側にもカウンターポイズと呼ばれるリード線を取り付けないと電波はアンテナに乗りません。
ガラスエポキシ基板なので裏のパターンが透けて見えています。
実際にこの記事を見てユニバーサル基板で製作された方があるようです。また、毎年学生に一人一台製作してもらっていますので、製作や性能には問題ありません。