放熱板、放熱器(ヒートシンク)の放熱設計法

半導体の放熱器(放熱板)の設計方法は、個人で回路を作る場合、解り難いものです。適当な放熱板を付けて動作させてみて、放熱板にさわってあまり熱くなければ、それで良しとする場合が多いのではないでしょうか。そんな方法でも良いでしょうが、正式な放熱設計方法を紹介します。

熱抵抗の意味と熱抵抗の計算

熱抵抗の模式図

熱抵抗とは、熱が移動している2点間の1W当りの温度差を言い、熱の伝わりにくさを表しています。単位は[度C/W]です。

放熱器( ヒートシンク楽天 )の設計にはこの熱抵抗という概念を使います。電気抵抗と同じような考え方です。電圧に相当するのが2点間の温度差で、電流に相当するのが移動している熱(損失した電力)です。

左の熱抵抗の模式図で
Tj ---半導体のジャンクション(接合部)温度
Tc ---半導体のケース温度
Tf ---放熱器の温度
Ta ---空気中の温度
θj-c ---半導体(トランジスター)の熱抵抗
θc-f ---絶縁物やシリコングリスの熱抵抗
θf-a ---放熱器の熱抵抗

とするとこれらの熱抵抗を加えたものが全体の熱抵抗(半導体の接合部から空気中まで) θj-a となります。

θj-a = θj-c + θc-f + θf-a

絶縁物とかシリコングリスの熱抵抗までは、個人が作る物ではそう考慮しなくても良いと思います。約0.5~2[゜C/W]位ですから、無視出来なければ考慮して下さい。

全体の熱抵抗 θj-a とコレクタ損失(半導体の熱損失) Pc を乗算したものが、ジャンクションの温度上昇ΔT [゜C]になります。これに周囲温度 Ta を加えたものが、ジャンクション温度 Tj になります。

ΔT = θj-a * Pc

Tj = θj-a * Pc + Ta

ジャンクションの温度は最大定格より十分低くなるように余裕をもって設計して下さい。

半導体の損失(発熱量)の計算

直流の場合は半導体の発熱量(コレクタ損失Pc)は簡単に計算出来ますが、スイッチング素子等の場合は簡単に計算出来ません。この時は、熱抵抗の解っている放熱板で温度を測定して、発熱量を逆算します。

半導体(トランジスター)単体の熱抵抗の計算方法

半導体(トランジスター)の熱抵抗はトランジスターの規格表には表示してないので、規格表から計算しなければなりません。

その方法を次に記します。この方法を知らない方が多いようです。本やウエブ上にあまり書いていないのでわからないのかも知れません。

トランジスターの規格表の最大定格の例が次のようになっていたとします。

Pc=25W(Tc=25゜C) Tj=150゜C

この場合のトランジスターのジャンクションとケース間の熱抵抗 θj-c を計算します。トランジスターが最大定格の点で動作している時を想定します。

無限大の理想放熱器を付けたトランジスターのケース温度が25度で、コレクタ損失が25Wでこの時のジャンクション温度が150゜Cですから、

θj-c = (150-25)/25 = 5 [゜C/W]

これが半導体(トランジスター)単体の熱抵抗となります。

放熱器(ヒートシンク)の熱抵抗

放熱器(ヒートシンク)の熱抵抗をあらかじめ測定しておくと、色々な物の熱抵抗を推測することができます。色々な放熱器を比較することで、見ただけでも放熱器の熱抵抗がわかる場合があります。

アルミニウムで作られた板を放熱器にする場合の熱抵抗と、熱抵抗が包絡体積に依存する場合の熱抵抗の算出グラフを次に示します。

アルミ板で作った放熱器(ヒートシンク)の熱抵抗

放熱板(ヒートシンク)の熱抵抗を算出するグラフ

放熱板(ヒートシンク)の熱抵抗を算出するグラフです。

注意!これは放熱板の表面積ではありません。放熱板の片面の面積です。

これは私が会社でテレビの設計をしていた時、実際に使用していたもので、実験で様々な放熱板を使って何度も熱抵抗を測定して確かめてあります。このデータには自信があります。

インターネットで検索したグラフを見たことがありますが、このグラフの理想放熱板より下に来ているデータもあるようです。注意して下さい。

包絡体積に依存する場合の熱抵抗

包絡体積に依存する場合の熱抵抗

放熱器(ヒートシンク)の表面にヒダがたくさんあって、市販のアルミ製の立派な物等の場合の熱抵抗を算出するグラフです。

板の場合でも複雑に曲げたりして、包絡体積に依存する場合もこのグラフを適用します。これも私が会社でテレビの設計をしていた時、実際に使用していたものです。

包絡体積とは、放熱器のいちばん外側の外形を結んだ体積のことです。放熱板を複雑に折り曲げた場合や、放熱フィンがたくさんあり複雑に入り組んだ物等に適用します。

このグラフは自然対流の場合で、放熱器の温度上昇が50度Cの時にのみ適用できます。強制空冷の場合はこれとは全く違ってきますので注意してください。

このグラフは自然対流で、放熱が理想の状態の場合であり、実際の放熱器ではこのグラフより熱抵抗は大きくなるのが普通です。