絶縁トランスを使用した感電防止

柱上トランスの一次側と二次側は絶縁されていますが、安全の為に二次側にアースが施されています。しかし、このアースの為に、二次側に触っただけで感電することがあります。そこで感電防止の為に、この二次側に更に絶縁トランスを使用することがあります。

絶縁トランスとは

絶縁トランスは、交流の電源回路に挿入することで、主に感電を防止したり、漏電した時、回路が遮断されては困る機器などに使用することがよくあります。

私は、サラリーマン時代の、トランスレスのテレビの設計時に、感電を防ぐ目的で絶縁トランスを使っていました。また、昔のブラウン管式のトランスレスのテレビなどを修理する時も、感電を防ぐ目的でよく使っていました。

絶縁トランスを使用しない通常回路の感電

漏電説明図

この図は、家庭に配電されている電柱の上のトランス等の回路図です。この電柱の上にあるトランスで6600Vの高圧を家庭用の100Vまたは200Vに変換しています。このトランスの2次側とトランスの鉄心は安全性を確保する為にアースされています。

柱上トランスのアースがあることにより、家庭内の100Vの片側と200Vの両端子には対地電圧100Vが発生します。

つまりこの図面のように電気製品の絶縁が悪くなって製品の外装の金属部分に100Vがかかっている時(つまり電気製品が漏電している時)外装の金属部分に人が触ると感電します。

この時、人の立っている足元が湿っていたりすると多くの電流(漏電電流、地絡電流)が流れて人は死に至ることがあります。

この場合もし電気製品に良いアースがあれば、人が外装の金属部分に触っても、電気はアースの方に流れて人体の方は安全です。またこのアース電流(漏電電流、地絡電流)が流れる事により、分電盤の漏電ブレーカーが働いて電気を止めてくれます。

このように 絶縁トランス楽天 を使用していない一般的な家庭用の100V電源回路では漏電した家電製品や電源の片側に触れただけで感電する場合があります。

絶縁トランスを使用した感電防止回路

絶縁トランスを使用した感電防止回路 上記のような感電を防止する為には、左の図のように100V電源に更に絶縁トランス(セパレートトランス)を使用する場合があります。

この場合は、絶縁トランスにより2次側の100Vの電源は1次側の100Vやアース回路から更に絶縁されています。

この為、漏電した家電製品や電源の片側に触れただけではどこにも電流は流れていかないので感電しませんし、絶縁トランスの1次側の漏電ブレーカーも働きません。

このような回路は漏電で回路が遮断されては困る病院や重要な回路や感電を防止するところに使われています。更に感電を防止するには、電気機器にアース(接地)をすることです。

絶縁トランスを使用する理由と目的など

感電と漏電の防止

万一使用している電気機器が 絶縁不良楽天 になっても感電を防止することができます。ただし、2台以上の電気機器を使用していて、2台の電気機器が同時に絶縁不良になると感電することがあります。この場合は電気機器にアースをしておけば感電は防止できます。

テレビ等のトランスレスの電気製品を修理する場合は、修理中に100V回路の充電部分に触ると感電します。これを防止するのにも絶縁トランスは有効です。(但し、高圧の感電は防止できません)

私はサラリーマン時代にカラーテレビの設計をしていました。カラーテレビはトランスレスで国内向けは100V、アメリカ向けは120V、ヨーロッパ向けは220V又は240Vが主流でした。そのため、各自、セパレートトランス(絶縁トランス)を使って実験をしていました。

アンテナ端子も絶縁されたものを使っていました。そうしないと、間違って絶縁トランスを使い忘れた時に、漏電してブレーカーが落ちたり、感電したりすることがあるからです。

病院の医用コンセントの例

医用コンセントの写真(病室のベッドの近くにありました)

病院のICUや手術室や回復室では医用コンセントを使っていますが、これは絶縁トランスで絶縁された電源です。この電源を非接地配線方式(フローティング電源)と呼びます。

病院の非接地配線方式の2次側にはアイソレーションモニタ(絶縁監視装置)を設置して絶縁が悪い機器が無いかどうかを常に監視しています。

この写真はコンセントが赤色なので非常用コンセント(抜け止め、接地付き)ですが、非接地配線方式になったものもあります。

配線は非接地でも、機器の筐体は安全の為に接地するのが普通です。

突然の回路の遮断防止

絶縁トランスを使用していない場合は、ひとつの電気機器が漏電すると漏電ブレーカーが働いて全ての電源が遮断する場合があります。

病院のように重要な医療機器を使用する場合は突然電源が切れては生命に関わることがあり、困りますので絶縁トランスを使用しています。

また、テレビ等のトランスレスの電気製品を修理する場合に、通常は絶縁されていないアンテナ端子を充電部に当ててしまうと、漏電して分電盤の漏電ブレーカーが切れてしまいます。

絶縁したアンテナ端子を使用するか、このような絶縁トランスを電源に挿入して使用すればこれを防ぐことが可能ですし、感電も防ぐことができます。

機器の安定動作

絶縁トランスが電源の途中に入ることにより、電源からのノイズをある程度減らすことができます。この為、電気機器の動作を安定にすることができます。更に安定に動作させるには最短距離で電気機器をアースすることをお勧めします。

最近のPLC(高速電力線通信)アダプターでは、家庭内の電気配線(電力線)に情報信号を乗せて送っていますので、この絶縁トランスがあると高周波信号(4MHz~28MHz)は伝達しません。この信号も電力線路から見ればノイズです。

2次側の電位を1次側とは別に設定できる

絶縁トランスは1次側と2次側は絶縁されている訳で、2次側の電位を1次側とは関係なく設定することができます。

例えば2次側の片側や中性点を接地することもできますし、2次側を接地電位より高い直流の電位にすることも低い直流の電位にすることも可能です。また、完全に2次側を浮かしてフローティング電源とすることもできます。

絶縁トランスを使用した回路の注意点

絶縁トランスを使用した回路では、漏電によって分電盤の漏電ブレーカーは動作しないので注意が必要です。漏電で回路を遮断する為には絶縁トランスの2次側にも漏電ブレーカーを設置する必要があります。ただし、2箇所以上で漏電しないと漏電ブレーカーは働きません。

絶縁トランスの2次側に絶縁不良の電気機器があると、絶縁トランスの2次側の片方の端子や別の絶縁不良の電気機器の外部金属部分に触ると感電しますので注意してください。この場合でも感電を防止するには、電気機器の筐体(きょうたい)にアースをすることです。

絶縁トランスを使用しても100V電源の両方の端子に同時に触ると感電することは言うまでもありません。