電気柵用電撃装置(ショックンPK)

蜂、獣、イノシシ用電気柵に使用する電源装置(牧柵器、電撃装置)の製作や設置の情報です。コイル蓄電キックバック方式の開発の経緯やPICマイコンの使用やPICの使用や回路での工夫などの記事です。

猪の画像

ショックンPKはコイルに蓄積した電気エネルギーを一気に解放させてコイルの自己誘導によって昇圧する方式です。自動車で点火コイルによって高圧を発生する方法がありますが、それに近いやり方です。

ショックンPK(コイル蓄電キックバック方式)開発の経緯

電気柵用電撃装置ショックンPK

従来のイノシシ用の電気柵に使う電撃装置「ショックンS」の高圧を上げてほしいとの要望が多くあり、新たにコイルの自己誘導を応用した方式を開発しました。(2006.10)

機械的強度と製品の耐久性を上げる為に金属ケースに入れました。(2007.03)

高圧パルス間隔0.5秒または1秒に切替できます。イタチやヌートリアや猿のように動作が速い動物には0.5秒間隔が有効です。(2007.07.21)

金属ケースからプラスチックケースに変更しました。更にコンパクトで丈夫になりました。(2009.06)

発振方式からパルス方式へ、PICマイコンの使用へ

発振方式では高圧がアースとショートした時でも発振を維持する為と、万一の故障で連続発振になった時の安全性確保の為に、高圧出力に直列に抵抗が必要でした。この抵抗が高圧の漏電で電圧を落とすネックになっていました。

また発振方式では高圧パルスが1秒間に何回もあるので、1つのパルスのパワーが小さく、これも漏電で高圧が下がる原因になっていました。

これを PICマイコン楽天 (Peripheral Interface Controller)を使ったパルス方式(コイル蓄電キックバック方式)(自己誘導方式)にする事で、

等の有利な点が多い事がわかりました。しかし、パルスのパワーが大きいのでトランスを大型化する必要があります。(何故なら電気エネルギーを一旦磁気エネルギーに変換する必要があり、トランスのコアに大きい物が必要です。)大型化して絶縁の良いトランスにする事で、高圧出力電圧を上げる事に成功しました。

PICの使用や回路での工夫

ラッチアップ対策  PICはCMOSのICであり、高圧を扱っているとラッチアップという現象は、避ける事が難しいものです。高圧の放電等で突然ICに大電流が流れる事があります。異常時電源をわざと不安定にして内部リセットを掛ける事で解決しました。また未使用のPIC端子は出力に設定し、入力にしか設定できない端子は入力として使用しました。
プログラム暴走対策  マイコンの宿命のようなもので、コンピューターというものは時々言うことを聞かないことがあります。ウォッチドッグタイマー(番犬タイマー)を使用して、もし暴走したら即リセットを掛ける事で解決。
電源電圧変動対策  電源のインピーダンスをわざと高くした定電圧回路とし、パワーアップタイマーを使用。PICのブラウンアウト検出という機能を使って電源電圧が低下して復帰した時、自動的にリセットを掛ける事で解決。
待機時の省電力  昼間等の待機時にPICを動作させておくとPICの電源安定化に最低でも数mAの電流が必要です。この為アナログ回路を駆使して、待機時はPICを動作させない回路にして、待機時の消費電流を約0.05mAにしました。
静電気でIC破壊対策  高圧を扱っているので静電気等でICが破壊されるのを防ぐ為に、電源とアース以外でICから外部にリード線で接続する場合は直列に必ず抵抗を接続しました。(これはテレビの設計では常識です)
汎用基板の使用  専用のプリント基板を作成せず、サンハヤトの汎用のディスクリート回路用基板(4mmピッチの穴あき)を使用しました。部品の配置をうまく考えれば簡単で低コストに作成できました。
チップ部品の使用  プリント基板をコンパクトに製作する為、チップ部品を使用しました。特に高容量の積層チップコンデンサは小さくて非常に有効でした。電解コンデンサは信頼性が低いので使用していません。
高圧制限回路  無負荷の高圧が高くては部品の信頼性を下げるだけなので、高圧を制限する回路を追加しました。この為、高圧の少しの漏電では高圧は下がりません。
漏電検出、高圧低下補償  高圧の漏電や電気柵と大地間の静電容量の影響等で高圧が低下すると、これを自動的に検出して高圧を上昇させています。漏電ではパルス間隔を不規則にして、漏電していることがわかる回路を追加しました。
パルス間隔切替回路  イタチやヌートリアや猿のように動作が速い動物が田畑に入るのを防止する為に、高圧パルスの間隔を1秒と0.5秒に切り替えられる回路を追加しました。
簡単回路で省部品  簡単な回路でもうまく働くように、極力部品点数を減らし、ひとつひとつ部品を吟味して使用しました。回路の信頼性と低コストを両立させました。

最初はなかなかうまく働かなかったPICですが、これらの対策でPICマイコンを非常に安定に動作させる事ができました。いくら機能が豊富でもいざとなった時に働かないのでは何にもなりません。

考えてみれば当然の事なのですが、常に変化している高圧の特定部分の電圧をPICで瞬時に測定して、その結果で高圧やパルス間隔を切り替える回路が一発でうまく動作した時はさすがに感動しました。

ショックンPKの主な仕様

電気柵用電撃装置「ショックンPK」(コイル蓄電キックバック方式)
電源電圧 DC12V (10V~14Vで使用してください。DC7Vでも2kV以上の高圧が出ます)
12Vバッテリーのプラス、マイナス逆接続でも完全に保護します。
(DC12VとAC100V共用に改造もします)
電源電流 動作時平均値約25mA
待機時約0.05mA (これは特に少ない電流です)
高圧出力 ピーク値約4,000V (電源電圧12V、無負荷時、オシロスコープで測定) *注1
高圧発生期間 約2000分の1秒間 (高圧負荷によって変動します)
高圧発生周期 1秒(低速)と0.5秒(高速)にスイッチ切替可能 (漏電で高圧が低下した時は周期が変動)
高圧制限回路 無負荷の高圧を制限したので、部品の信頼性を確保でき、少しの漏電で高圧が下がるのを防止しました。
漏電検出回路 高圧の漏電を検出して高圧が約1.5~2kV以下になると、自動的に高圧を上昇させ、パルス間隔が不規則に変化します。このようになると柵の点検や草刈りが必要です。
高圧低下補償回路 電気柵の長さが長くなると高圧が低下してきます。電気柵の長さを自動検出して高圧を上げるプログラムを追加しました。
明るさセンサ CdSを使用して自動で夜だけ、または常時動作が可能
重量 約1.3kg
ケース 寸法 D=約140 W=約110 H=約75 [mm] 突起部を除く
材質 プラスチック製(ABS t=3mm) パネルはアルミニウム製
防水構造ではありません。とてもコンパクトです。

*注1
 電気柵の漏電がほとんど無い場合で電気柵の長さが長い場合は、電気柵と大地との間の静電容量によって次のような影響が出る場合があります。

上記のような場合は高圧は変わらず電源電流が減少するのが一般的です。稀に高圧が低くなったり、高くなったりと交互に変動する場合もあります。イノシシ等が柵に触れたりして少しでも漏電するとすぐにこの現象はなくなります。故障ではありません。最新の回路では改良されていますので、このようなことはありません。

高圧の放電写真

高圧の放電写真

高圧をバイクの点火プラグに接続してみました。点火プラグのギャップは約1mmです。

高圧を火花放電させると高圧が低下してパルス間隔が変わりますが、撮影の時はこの回路の動作を止めています。撮影した画像を元にGIFアニメにしました。

実験中不注意で高圧に感電しました。ショックンSに比べて何倍もの電撃がありました。人体がアース側にも接触していたのでかなりの衝撃でした。